sともしび》を過ぎれば紅き春の花とならん――というケルネルの詩にあるんだよ。まさにその瞬間、伸子は悲惨な転落を意識しなければならなかったのだ。何故なら、元来アレキサンドライトという宝石は、電燈の光で透かすと、それが真紅に見えるからだ。そこで僕は、伸子がレヴェズにあの室《へや》を指定して、自分はアレキサンドライトを髪飾りにつけ、それに電燈の光を透過《すか》させて、レヴェズを失意せしめた――と解釈するに至った。ねえ支倉君、この警句はどうだろうね。レヴェズ――あの洪牙利《ハンガリー》の恋愛詩人《ツルバズール》は、秋を春と見てこの世を去った――と」と一息深く莨《たばこ》を吸いこんでから二人が惑乱気味に嘆息するのも関《かま》わず、法水は云い続けた。
「ところが、あの黄から紅《くれない》――には、なおそれ以外にも別の意義があって、勿論僕が、サントニンの黄視症を透視したというのも、偶然の所産ではなかったのだよ。何故なら、それから、犯人の潜勢状態を剔抉《てっけつ》したからだ。それを他の言葉で云うと、兇行によってうけた犯人の精神的外傷――つまり、その際に与えられた表象や観念の、感覚的情緒的経験の再現にあ
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