Aそれを聴いた刹那《せつな》検事と熊城には、いったんは理法と真性のすべてが、蜻蛉《とんぼ》返りを打ってケシ飛んでしまったように、思われたけれども、少し落ち着いてくると、それにはむしろ、真面目《まじめ》な反論を出すのが莫迦《ばか》らしくなったくらい、不思議なほど冷静な、反響一つ戻ってゆかないという静けさだった。第一、それを否定する厳然たる事実の一つと云うのは、伸子は既《とう》に五人目の人身御供《ひとみごくう》に上っていて、その歴然たる他殺の証跡が、法水の署名を伴って検死報告書に記されているのだ。それから家族以外の彼女には、動機と目すべきものが何一つなく、しかも法水の同情と庇護《ひご》を一身に集めていた伸子が、どうして犯人だったと信ぜられようか。それゆえ熊城には、それがえてして頭を痛めているものの罹《かか》りやすい、或る病的な傾向と見て取ったのも無理ではなかった。
「まるで、気が遠くなりそうな話じゃないか。それとも、真実君が正気でいるのなら、たった一つでも、僕はそれに刑法的価値を要求するよ。まずなにより、伸子の死を自殺に移すことだ」
「ところが熊城君、今度は、|毛ほど《ラナ・カプリナ》のも
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