竄アの事件の刑法的解決は、永遠に望むべくもないのだった。それから三十分後に、法水は暗澹《あんたん》とした顔色を黒死館に現わした。そして、今や眼《ま》のあたり伸子の遺骸を見ると、事件の当初から、ファウスト博士の波濤《はとう》のような魔手に弄《もてあそ》ばれ続けて、とどのつまり生命の断崖から、突き落されたこの今様グレートヘンが……、なんとなく死因に対する、法水の道徳的責任を求めているように思われ、はてはそれが、とめどない慚愧《ざんき》と悔恨《かいこん》の情に変ってしまうのだった。ところが、現場伸子の室《へや》に一歩踏み入れると、そこには、鮮かにも残された犯人の最後の意志――Kobold《コボルト》 sich《ジッヒ》 muhen《ミューエン》(地精《コボルト》よいそしめ)が印されていた。
しかもそれは、いつものような紙片にではなく、今度は、伸子の身体に印されていた。と云うのは、その――投げ出した、左手から左足までが一文字に垂直の線をなしていて、右手と右足とが、くの字形にはだけ、なんとなく全体の形が、Kobold《コボルト》 のKを髣髴《ほうふつ》とするもののように思われたからである。それ
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