ァって、パノラマのような眺望を、恍惚《うっとり》と味わっているうちに、彼女の肩に手を置き、無量の意味と愛着とを罩《こ》めて云った。
「伸子さん、既《とう》に嵐と急迫の時代は去りましたよ。この館も再び旧《もと》のとおりに、絢爛《けんらん》たるラテン詩と恋歌《マドリガーレ》の世界に帰ることでしょう。ところで、ああして響尾《ガラガラ》蛇の牙《きば》は、すっかり抜いてしまったのですから、貴女は懼《おそ》れず僕に、例の約束を実行して下さるでしょうね。もう、何も終って、新しい世界が始まるのですよ。この神秘的な事件の閉幕を、僕はこういうケルネルの詩で飾りたいのですがね。色は黄なる秋、夜の灯《ともしび》を過ぎれば紅《あか》き春の花とならん――」
ところが、その翌日の午後になると、伸子の打札《うちふだ》がヒュッと風を切って飛び来ると思いのほか、意外にも検事と熊城が訪れてきて、当の本人伸子が、拳銃で狙撃され即死を遂げたという旨を告げた。それを聴くと、事件を全然|放擲《ほうてき》しかねまじい失意を、法水が現わしたばかりでなく、せっかく見出した確証を掴もうとした矢先、その希望が全然截ち切られてしまって、もは
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