uいいえ、竪琴《ハープ》の前枠に手をかけていて、私は、そのまま凝《じ》っと息を凝《こ》らしておりました」と伸子は躊《ため》らわずに、自制のある調子で云い返した。「ですから、長絃だけが鳴ったと云うのなら、また聞えた話ですけど……。とにかく、貴女様の寓喩《アレゴリー》は、全然実際とは反対なのでございます」
その時旗太郎が、妙に老成したような態度で、冷たい作り笑いを片頬《かたほほ》に泛《うか》べた。「さて、その妖冶《ようや》な性質を、法水さんに吟味して頂きたいですがね。――そもそも、あの時|竪琴《ハープ》の方から近づいてきた、気動というのが何を意味するか。ところが、その楽音嚠喨《クリングクランゲ》たるやです。美しい近衛胸甲騎兵《ガルド・キュイラシエール》の行進ではなくて、あの無分別者ぞろいの、短上衣《ヤッケ》をはだけて胸毛を露き出して、ぷんぷん鹿が落した血の跡を嗅ぎ廻るといった、黒色猟兵《シュワルツ・イエガー》だったのです。いやきっと、あいつは人肉《フライッシュ》が嗜《す》きなんでしょうよ」
そうして、追及される伸子の体位は、明らかに不利だった。その残忍な宣告が、永遠に彼女を縛りつけてし
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