》んでいる拱廊《そでろうか》の中に入って行った。そして、円廊に開かれている扉際《とぎわ》に立ち、じっと前方に瞳を凝らしはじめた。円廊の対岸には、二つの驚くほど涜神《とくしん》的な石灰面《フレスコ》が壁面を占めていた。右側のは処女受胎の図で、いかにも貧血的な相をした聖母《マリヤ》が左端に立ち、右方には旧約聖書の聖人達が集っていて、それがみな掌《てのひら》で両眼を覆い、その間に立ったエホバが、性慾的な眼でじいっと聖母《マリヤ》を瞶《みつ》めている。左側の「カルバリ山の翌朝」とでも云いたい画因のものには、右端に死後強直を克明な線で現わした十字架の耶蘇《ヤソ》があり、それに向って、怯懦《きょうだ》な卑屈な恰好をした使徒達が、怖る怖る近寄って行く光景が描かれていた。法水は取り出した莨《たばこ》を、思い直したように函《ケース》の中に戻して、途方もない質問を発した。
「支倉君、君はボーデの法則を知っているかい――海王星以外の惑星の距離を、簡単な倍数公式で現わしてゆくのを。もし知っているのなら、それを、この拱廊《そでろうか》でどういう具合に使うね」
「ボーデの法則※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」検
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