オ、左肋骨には創傷の跡が残っていて、明らかにそれは、算哲の遺骸に相違ないのだった。
「算哲はやはり死んでいたのだ。すると、いったいあの指痕は、誰のものなんだろうか」と熊城を顧《かえり》みて、検事は唸《うな》るような声で呟《つぶや》いた。がその時、法水の眼に妖しい光が閃《ひらめ》いたかと思うと、顔を算哲の肋骨に押し付けて、動かなくなってしまった。実に意外千万にも、その胸骨には縦に刻まれている、異様な文字があったのである。
[#天から2字下げ]PATER《パテル》! HOMO《ホモ》 SUM《スム》!
「父よ、吾《われ》も人の子なり――」と法水は、その一行の羅甸《ラテン》文字を邦訳して口誦《くちずさ》んだが、異様な発見はなおも続けられた。と云うのは、その彫字の縁に、所々|金色《こんじき》をした微粒が輝いているのと、もう一つは、欠け落ちた歯の隙に、たぶん小鳥らしいと思われる、骸骨が突っ込まれていることだった。法水はその微粒を手に取って、しばらく眺めすかしていたが、
「ああ、恐らくこれが、ファウスト博士の儀礼《パンチリオ》なんだろうがね。しかし熊城君、この文字は乾板で彫ってあるのだよ。|父よ吾
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