黷トしまった。それから、いつも訊問室に当てている、ダンネベルグ夫人の室《へや》に戻ると、そこには旗太郎とセレナ夫人とが、四、五人の楽壇関係者らしいのを従えて待っていた。ところが、法水の顔を見ると、温雅な彼女にも似げない、命令的な語調で、セレナ夫人が云い出した。
「私どもは明瞭《はっきり》した証言をしにまいりました。実は、伸子を詰問して頂きたいのですが」
「なに紙谷伸子《かみたにのぶこ》を※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と法水は、ちょっと驚いたような素振を見せたけれども、その顔には、隠そうとしても隠し得ようのない、会心の笑《えみ》が浮んできた。
「そうすると、あの方が、貴女《あなた》がたを殺すとでも云いましたかな。いや、事実誰かれにも、とうてい打ち壊すことの出来ない障壁があるのですよ」
 それに、旗太郎が割って入った。そして、相変らずこの異常な早熟児は、妙に老成した大人のような、柔か味のある調子で云った。
「法水さん、その障壁と云うのが、今まで僕等には、心理的に築かれておりましてね。現に津多子さんが、最前列の端にいられたのを御存じでしょう。ところが、その障壁を、いまここにいられる方々
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