う》のうちの一つが、一番最後に剰《あま》ってしまうのだよ。で仮りに、最初、人形が窓際にあったとして、まず犯人の足跡を踏みながら室を出て行き、そして再び、旧《もと》の位置まで戻ったと仮定しよう。そうすると、続いてもう一度、今度は扉《ドア》に、鍵を下すために歩かなければならない。ところが見たとおり、それが扉《ドア》の前で、現在ある位置の方へ曲っているのだから、残った一条が全然余計なものになってしまう。だから、往復の一回を、犯人の足跡を消すためだとすると、そこからどうして、窓の方へもう一度戻さなければならなかったのだろうか。窓際に置かなければ、何故人形に鍵を下させることが出来なかったのだろう」
「人形が鍵をかける※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」検事は呆れて叫んだ。
「それ以外に誰がするもんか」と知らぬ間に、法水は熱を帯びた口調になっていて、「しかし、その方法となると、相変らず新しい趣向《アイデア》ではない。十年一日のごとくに、犯人は糸を使っているんだよ。ところで、僕の考えていることを実験してみるかな」
 そして、鍵がまず扉《ドア》の内側に突っ込まれた。けれども、彼が一旬日ほど以前、聖《セ
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