ント》アレキセイ寺院のジナイーダの室において贏《か》ち得たところの成功が、はたして今回も、繰り返されるであろうかどうか――それがすこぶる危ぶまれた。と云うのは、その古風な柄の長い鍵は、把手《ノッブ》から遙かに突出していて、前回の技巧を再現することがほとんど望まれないからであった。二人が見戍《みまも》っているうちに、法水は長い糸を用意させて、それを外側から鍵孔《かぎあな》を潜《くぐ》らせ、最初鍵の輪形の左側を巻いてから、続いて下から掬《すく》って右側を絡め、今度は上の方から輪形の左の根元に引っ掛けて、余りを検事の胴に繞《めぐ》らし、その先を再び鍵穴を通して廊下側に垂らした。そうしてから、
「まず支倉君を人形に仮定して、それが窓際から歩いて来たものとしよう。しかし、それ以前に犯人は、最初人形を置く位置について、正確な測定を遂げねばならなかった。何にしても、扉の閾《しきい》の際《きわ》で、左足が停まるように定める必要があったのだ。何故なら、左足がその位置で停まると、続いて右足が動き出しても、それが中途で閾に逼《つか》えてしまうだろう。だから、後半分の余力が、その足を軸に廻転を起して、人形の左
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