を突き出すと、
「紋章学※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と検事は呆れたように叫んだ。
「ウン、寺門義道《てらかどよしみち》の『紋章学秘録』さ。もう稀覯本《きこうぼん》になっているんだがね。ところで君は、こういう奇妙な紋章を今まで見たことがあるだろうか」と法水が指先で突いたのは、FRCO[#「FRCO」は太字]の四字を、二十八葉|橄欖《かんらん》冠で包んである不思議な図案だった。
「これが、天正遣欧使の一人――千々石《ちぢわ》清左衛門|直員《なおかず》から始まっている、降矢木家の紋章なんだよ。何故、豊後《ぶんご》王|普蘭師司怙《フランシスコ》・休庵《シヴァン》(大友宗麟)の花押《かおう》を中にして、それを、フィレンツェ大公国の市表章旗の一部が包んでいるのだろう。とにかく下の註釈を読んで見給え」
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 ――「クラウディオ・アクワヴィバ(耶蘇《ジェスイット》会会長)回想録」中の、ドン・ミカエル(千々石のこと)よりジェンナロ・コルバルタ(ヴェニスの玻璃《ガラス》工)に送れる文。(前略)その日バタリア僧院の神父ヴェレリオは余を聖餐式《エウカリスチヤ》に招きたれど、姿を現わ
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