さざれば不審に思いいたる折柄、扉を排して丈《たけ》高き騎士現われたり、見るに、バロッサ寺領騎士の印章を佩《つ》け、雷の如き眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りて云う。フランチェスコ大公妃ビアンカ・カペルロ殿は、ピサ・メディチ家において貴下の胤《たね》を秘かに生めり。その女児に黒奴《ムール》の乳母をつけ、刈込垣の外に待たせ置きたれば受け取られよ――と。余は、駭《おどろ》けるも心中覚えある事なれば、その旨《むね》を承じて騎士を去らしむ。それより悔改《コンチリサン》をなし、贖罪符《しょくざいふ》をうけて僧院を去れるも、帰途船中|黒奴《ムール》はゴアにて死し、嬰児《えいじ》はすぐせ[#「すぐせ」に傍点]と名付けて降矢木の家を創《おこ》しぬ。されど帰国後吾が心には妄想《もうぞう》散乱し、天主《デウス》、吾れを責むる誘惑《テンタサン》の障礙《しょうげ》を滅し給えりとも覚えず。(以下略)
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「つまり、降矢木の血系が、カテリナ・ディ・メディチの隠し子と云われるビアンカ・カペルロから始まっていると云うことなんだが、その母子《おやこ》がそろって、怖ろしい惨虐性犯
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