ろしく大きく作られていて、足蹠《あしひら》のごときは、普通人の約三倍もあろうと思われる広さだった。法水は考証気味な視線を休めずに、
「まるで騎士埴輪《ゴーレム》か鉄《くろがね》の処女としか思われんね、これがコペツキーの作品だと云うそうだが、さあプラーグと云うよりも、体躯の線は、バーデンバーデンのハンスヴルスト([#ここから割り注]独逸の操人形[#ここで割り注終わり])に近いね。この簡素な線には、他の人形には求められない無量の神秘がある。算哲博士が本格的な人形師に頼まないで、これを大きな操人形《マリオネット》に作ったのは、いかにもあの人らしい趣味だと思うよ」
「人形の観賞は、いずれゆっくりやってもらうことにしてだ」と熊城は苦々しげに顔を顰《しか》めたが、「それより法水君、鍵が内側から掛っているんだぜ」
「ウン驚くべきじゃないか。しかし、まさかに犯人の意志で、この人形が遠感的《テレパシック》に動いたという訳じゃあるまい」鍵穴に突き込まれている飾付の鍵を見て、検事は慄然《りつぜん》としたらしかったが、足許から始めて、床の足型を追いはじめた。跡方もなく入り乱れている、扉口から正面の窓際にかけて
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