ゥなるファウスト博士といえども、乗ずる隙は、万が一にもあるまいと信じられていた。ところが、そのうち竪琴《ハープ》のグリッサンドが、夢の中の泡のように消えて行って、旗太郎の第一|提琴《ヴァイオリン》が主題の旋律を弾《ひ》き出すと、……その時、実に予想もされ得なかった出来事が起ったのである。突然聴衆の間から湧き起った、物凄じい激動とともに、舞台が薄気味悪い暗転を始めたのであった。
 不意に装飾灯《シャンデリヤ》の灯が消えて、色と光と音が、一時に暗黒の中へ没し去った。と、ちょうどそれと同時に、何者が発したものか、演奏台の上で異様な呻《うめ》き声が起ったのである。続いて、ドカッと床に倒れるような響がしたかと思うと、投げ出されたらしい絃楽器が、弦と胴をけたたましく鳴らせながら、階段を転げ落ちていった。そして、その音がしばらく闇の中で顫《ふる》えはためいていたが、杜絶《とだ》えてしまうと、もはや誰一人声を発する者もなく、堂内は云いしれぬ鬼気と沈黙とに包まれてしまった。
 呻吟《しんぎん》と墜落の響――。たしか四人の演奏者の中で、そのうち一人が斃《たお》されたに相違ない。そう思いながら、法水が凝然《
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