「て、衣袋《ポケット》[#ルビの「ポケット」は底本では「ポッケト」]の中から、例のディグスビイの、奇文を記した紙片を取り出した。すると、そこに何事か異常なものが予期されてきて、二人の顔に、なかば怯々《おずおず》とした生色が這い上っていった。法水は静かに云った。
「実を云うと、ディグスビイの秘密記法《クリプトメニツェ》も、既《とう》にあの|大階段の裏《ビハインド・ステイアス》――だけで尽きていて、この奇文の中にある、告白と呪詛《じゅそ》の意志を、示すに止まっていると考えられていた。ところが、故意に文法を無視したり冠詞のない点を考えると、そこから秘密記法の、おぞましい香気が触れてくるように思われた。ねえ熊城君、一つの暗号からまた新しいものが現われる――それを子持ち暗号と云って、ちょうどこの二つの文章が、それに当るのだよ。ところで、くどくどしい苦心談は、抜きにして、さっそく解読法を述べることにしよう。元来、暗号とは一見似てもつかぬ、二つの奇文のように見えるが、そのうち、最初の短文の頭文字だけを、列《つら》ねたものが暗号語なんだ。また、その鍵《キイ》は、もう一つの創世記めいた、文章の中に隠され
前へ
次へ
全700ページ中564ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング