に含まれているんだからね。サア、これから温室へ行こう。もしかしたら、最近そこへ出入りした人物の名が、判るかもしれないから……」
 法水が目指したところの温室と云うのは、裏庭の蔬菜園の後方にあって、その側《かたわら》には、動物小屋と鳥禽舎《ちょうきんしゃ》とが列《なら》んでいた。扉《ドア》を開くと、噎《むっ》とするような暖気が襲ってきて、それは熱に熟れた、様々な花粉の香りが――妙に官能を唆《そそ》るような、一種名状しようのない媚臭で、鼻孔を塞いでくるのだった。入口には、いかにも前史的なヤニ羊歯《しだ》が二基あって、その大きな垂葉を潜って凝固土《たたき》の上に下りると、前面には、熱帯植物特有の――たっぷり樹液でも含んでいそうな青黒い葉が、重たそうに繁り冠さり合い、その葉陰の所々に、臙脂《えんじ》や藤紫の斑が点綴《てんてつ》されていた。しかし、間もなく灯の中へ、ちょっと馬蓼《いぬたで》に似た、見なれない形の葉が現われて、それを法水はヤポランジイだと云った。ところが、調査の結果は、はたして彼の云うがごとく、その茎には六個所ほど、最近に葉をもぎ取ったらしい疵跡《きずあと》が残されていた。すると
前へ 次へ
全700ページ中545ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング