黷ェ津多子ならば、十分押鐘博士を通じて――ということも云えるだろう。けれども、それ以外の人物だとすると、まずその出所が、この館の薬物室以外には想像されないと思うのだがね。だから法水君、僕はホップスじゃないが、もう一度薬物室を調べてみたら、あるいは犯人の戦闘状態《ステート・オブ・ウォア》が判りゃしないかと思うんだ」
 この検事の提議によって、再び薬物室の調査が開始された。しかし、そこにはピロカルピンの薬罎《くすりびん》はあっても、それにはどこぞと云って、手を付けたらしい形跡はなかった。したがって、減量は云うまでもないことだが、なにより最初から、一度も使ったことがないと見えて、全体が厚い埃を冠っていた。そして、薬品棚の奥深くに埋もれているのだった。法水はいったん失望の色を泛《うか》べたけれども、突然彼に、莨《たばこ》を捨てさせてまで叫ばせたものがあった。「そうだ支倉《はぜくら》君、あまり君の署名《サイン》が鮮かだったものだから、それに眼が眩《くら》んで、僕は些細な事までもうっかりしていたよ。あながちピロカルピンの所在は、この薬物室のみに限らんのだ。元来あの成分と云うのが、ヤポランジイの葉の
前へ 次へ
全700ページ中544ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング