タまったく、この事件の犯人には、仮象を実在に強制する、不可思議な力があるのかもしれない。熊城は、もはや我慢がならないように息を呑《の》んだが、
「しかし、今日の伸子には、感謝してもいいだろうと思うよ。実は、先刻《さっき》僕の部下が、伸子の室《へや》を捜っている間に、あの女は、クリヴォフの室でお茶を飲んでいたのだ。ところが、その席上に居合わせた人物というのが、動機の五芒星円《ペンタグラムマ》から、しっくりと離れられない連中ばかりなんだ。どうだ、法水君、曰《いわ》く最初が旗太郎さ。それから、レヴェズ、セレナ……。あの頭中繃帯しているクリヴォフだっても、その時は寝台の上に起き上っていたと云うんだからね」と熊城が吐いた内容には、この場合、誰しも打たれずにはいなかったであろう。何故なら、それによって、犯人の範囲が明確に限定されて、従来《これまで》の紛糾混乱が、いっせいに統一された観がしたからだった。そこへ、検事がすこぶる思いつきな提議をした。
「ところで僕は、これが唯一の機会《チャンス》だと思うのだよ。つまり、犯人がピロカルピンを手に入れた――その経路を明瞭《はっきり》させることなんだ。もし、そ
前へ
次へ
全700ページ中543ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング