ろ呆れたように叫んだ。
「テレーズ! これは自働人形じゃないか」
「そうなんだよ。これにあの創紋を結びつけたなら、よもや幻覚とは云われんだろう」と熊城も低く声を慄《ふる》わせた。「実は、寝台の下に落ちていたんだが、それをこのメモと引合わせてみて、僕は全身が慄毛《そうげ》立った気がした。犯人はまさしく人形を使ったに違いないのだ」
法水は相変らず衝動的な冷笑主義《シニシズム》を発揮して、
「なるほど、土偶人形に悪魔学《デモノロジイ》か――犯人は、人類の潜在批判を狙《ねら》っているんだ。だが、珍しく古風な書体だな。まるで、半大字形《アイリッシュ》か波斯文字《ネスキー》みたいだ。でも君は、これが被害者の自署だという証明を得ているのかい?」
「無論だとも」熊城は肩を揺ぶって、「実は、君達が来た時にいたあの紙谷《かみたに》伸子という婦人が、僕にとると最後の鑑定者だったのだ。で、ダンネベルグ夫人の癖と云うのはこうなんだ。鉛筆の中ほどを、小指と薬指との間に挾んで、それを斜めにしたのを、拇指《おやゆび》と人差指とで摘《はさ》んで書くそうだがね。そういった訳で、夫人の筆蹟はちょっと真似られんそうだよ。そ
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