Bしかし、法水は古代時計室の前まで来ると、何を思ったか、不意に立ち止った。そして、伸子の室の調査を私服に任せて、押鐘夫人津多子を呼ぶように命じた。
「冗談じゃない。津多子を鎖じ込めた文字盤に、暗号でもあるのなら別だがね。しかし、あの女の訊問なら後でもいいだろう」と熊城は、不同意らしい辛々《いらいら》した口調で云うのだった。
「いや、あの廻転琴《オルゴール》時計を見るのさ。実は、妙な憑着《ひょうちゃく》が一つあってね。それが、僕を狂気《きちがい》みたいにしているのだよ」とキッパリ云い切って、他の二人を面喰《めんくら》わせてしまった。法水の電波楽器《マルティノ》のような微妙な神経は、触れるものさえあれば、たちどころに、類推の花弁となって開いてしまうのだ。それゆえ、一見無軌道のように見えても、さて蓋《ふた》が明けられると、それが有力な連字符ともなり、あるいは、事件の前途に、全然未知の輝かしい光が投射される場合が多いのであった。
そこへ、壁に手を支えながら、津多子夫人が現われた。彼女は大正の中期――ことにメーテルリンクの象徴悲劇などで名を謳《うた》われただけあって、四十を一、二越えていても、
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