サの情操の豊かさは、青磁色の眼隈に、肌《はだえ》を包んでいる陶器のような光に、かつて舞台におけるメリザンドの面影が髣髴《ほうふつ》となるのであった。しかも、夫押鐘博士との精神生活が、彼女に諦観《ていかん》的な深さを加えたことも勿論であろう。しかし、法水はこの典雅な婦人に対して、劈頭《へきとう》から些《いささ》かも仮借せず、峻烈な態度に出た。
「ところで、最初からこんなことを申し上げるのは、勿論|無躾至極《ぶしつけしごく》な話でしょう。しかし、この館の人達の言《ことば》を借りると、貴女《あなた》のことを人形使いと呼ばなければならないのですよ。ところが、その人形と糸ですが、事件の劈頭には、それがテレーズの人形にありました。そして、またその悪の源は、永生|輪廻《りんね》の形で繰り返されていったのです。ですから夫人《おくさん》、僕には、貴女に当時の状況をお訊ねして、相変らず鬼談的《デモーニッシュ》な運命論を伺《うかが》う必要はないのですよ」
冒頭に津多子は、全然予期してもいなかった言葉を聴いたので、そのすんなりした青白い身体が、急に硬《こわ》ばったように思われ、ゴクンと音あらく唾《つば》を嚥
前へ
次へ
全700ページ中532ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング