oートの哀歌』でも読まれることだな。いいかな、ここに、久遠《くおん》の女性を求めようとする一人があったとしよう。しかし、その精神の諦観《ていかん》的な美しさには、野心も反抗も憤怒も血気も、いっさいが、堰《せき》を切ったように押し流されてしまうのだ。ところが貴方は、それに慚愧《ざんき》と処罰としか描こうとしない。いや、そればかりではないのです。貴方の率いている狩猟の一隊が、今日いまここで、野卑な酷薄な本性を現わしたのだ。しかし射手は確か、獲物は動けず……」
「なるほど、狩猟ですか……。だがレヴェズさん、貴方はこういうミニヨンを御存じでしょうか。――かの山と雲の棧道《かけじ》、騾馬《らば》は霧の中に道を求め、窟《いわあな》には年経し竜の族《たぐい》棲む……」と法水が意地悪げな片笑《かたえみ》を泛《うか》べたとき、入口の扉《ドア》に、夜風かとも思われる微《かす》かな衣摺《きぬず》れがさざめいた。そして、しだいに廊下の彼方へ、薄れ消えてゆく唱《うた》声があった。
[#ここから2字下げ]
狩猟《かり》の一隊《ひとむれ》が野営を始めるとき
雲は下り、霧は谷を埋めて
夜と夕闇と一ときに至る
[#こ
前へ
次へ
全700ページ中522ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング