ヘ、当時あの室《へや》に起った実相を描き出すことが出来ました。と云うのは、伸子が『聖ウルスラ記』を取り出そうとして、右手を書棚の上段に差し伸べた際でした。その時、前方の室のどこかで物音がしました。それで、伸子は本を掴んだまま後方を振り向いて、背後にある書棚の硝子扉《ガラスドア》を見たのです。その時彼女の眼に、寝室から出て来たある人物の姿が映ったのでした。ですから、その吃驚《びっくり》した機《はず》みに、隣り合った『|予言の薫烟《ヴァイスザーゲント・ラウフ》』を動かしたのですから、あの千頁にあまる重い木表紙本が、伸子の右肩に落ちたのです。そして、その咄嗟《とっさ》に起った激しい反射運動が因で、右手に持った『聖ウルスラ記』を、頭上越しに左手の花瓶に投げつけたという訳なのですよ。ねえレヴェズさん、そうなると、その『|予言の薫烟《ヴァイスザーゲント・ラウフ》』によって、一つの心的検証を行うことが出来るのです。すなわち、その時寝室に潜んでいた人物に、一つの虚数をつけることが出来るのです。虚数《イマジネリー・ヴァリュー》――しかし、リーマンはそれによって、空間の特質を、単なる|三重に拡がった大きさ
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