n)

そして、次の一文が続いていた。それは文意と云い、創世記に皮肉嘲説を浴びせているようなものだった。

 ――(訳文)。エホバ神《がみ》は半陰陽《ふたなり》なりき。初めに自らいとなみて、双生児《ふたご》を生み給えり。最初に胎《はら》より出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと名付けたり。しかるに、アダムは陽に向う時、臍《ほぞ》より上は陽に従いて背後に影をなせども、臍《ほぞ》より下は陽に逆《さから》いて、前方に影を落せり。神、この不思議を見ていたく驚き、アダムを畏《おそ》れて自らが子となし給いしも、エヴは常の人と異ならざれば婢《しもめ》となし、さてエヴといとなみしに、エヴ妊《みごも》りて女児《おなご》を生みて死せり。神、その女児《おなご》を下界に降《くだ》して人の母となさしめ給いき。
[#ここで字下げ終わり]

 法水は、それにちょっと眼を通しただけだったが、検事と熊城はいつまでも捻《ひね》くっていて、しばらく数分のあいだ瞶《みつ》めていた。しかし、ついにつまらなそうな手付で卓上に投げ出したけれども、さすが文中に籠《こも》っているディグスビイの呪詛《じゅそ》の意志には
前へ 次へ
全700ページ中475ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング