Aそれ以前に、ディグスビイも――と云った僕の一言が、端なくディグスビイの本体を知らない貴女《あなた》の心を捉えてしまったのです。そして、無意識の裡《うち》に、指環を抜いてみたり嵌《は》めてみたり、またクルクル廻したりするような、徴候発作が貴女に現われていきました。そこで僕は、妙に心を唆《そそ》るような間《パウゼ》を置いたのです。その間《パウゼ》です――それはただに演劇ばかりでなく、ことに訊問において必要なのですよ。ねえ久我さん、犯人は台本作家ではある代りに、けっして一行のト書だって指定しやしません。その意味で、捜査官というものは、何よりよき演出者であらねばならないのです。いや、冗弁は御勘弁下さい。何より御詫びしておきたいのは、僕は貴女の御許しを俟《ま》たずに、心像奥深くを探って闖入《ちんにゅう》していったのですから……」
 そこで、法水は、新しい莨《たばこ》を取り出して、その誇るべき演出の描写を繰り拡げていった。
「しかし、その間《パウゼ》は混沌たるものです。けれども、その中には様々な心理現象が十字に群がっていて、まるで入道雲のように、ムクムク意識面を浮動しているのです。その状態は、そ
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