烽ネい。勿論、類推でも照応でもないのだよ。実際に真正の虹が、犯人とクリヴォフ夫人との間に現われたのだがね」と法水が、未だに夢想の去りきらない、熱っぽい瞳を向けたとき、扉《ドア》が静かに開かれた。そして、突然何の予告もなしに、久我鎮子の瘠せた棘々《とげとげ》しい顔が現われた。その瞬間、グイと息詰るようなものが迫ってきた。恐らくこの学識に富み、中性的な強烈な個性を持った神秘論者は、人間には犯人を求めようのなくなった異様な事件を、さらにいっそう暗澹《あんたん》たるものとするに相違ないのである。鎮子は軽く目礼を済ますと、いつものように冷淡な調子で云った。が、その内容はすこぶる激越なものだった。
「法水さん、私、まさかとは思いますわ。ですけど、貴方はあの渡り鳥のいうことを、無論そのままお信じになっているのじゃございますまいね」
「|渡り鳥《ワンダー・フォーゲル》※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」法水は奇異の眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、咄嗟《とっさ》に反問した。つい今し方、自分が虹の表象として吐いた言葉が、偶然かは知らぬが、鎮子によって繰り返されたからである。
「
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