スい、これが刑事被告人の天国なんですよ。捕繩で貴女の手頸《てくび》を強く緊めるんです。そうすると、全身に気持のよい貧血が起って、しだいにうとうととなってゆくそうですからな」
 その瞬間、伸子の視線がガクンと落ちて、両手で顔を覆い、卓上に俯伏《うつぶ》してしまった。ところが、続いて警察自動車を呼ぼうとし、熊城が受話器を取り上げた時だった。法水は何と思ったか、その紐線《コード》に続いている、壁の|差込み《プラグ》をポンと引き抜いて、それを伸子の掌の上に置いた。そうしてから、唖然となった三人を尻眼にかけ、陶然と彼の着想を述べたのである。ああ、事態は再び逆転してしまったのだった。
「実は、その――貴女にとって不運なお化《ばけ》が、僕に詩想を作ってくれました。これがもし春ならば、あの辺は花粉と匂いの海でしょう。しかし、裏枯れた真冬でさえも、あの噴泉と樹皮亭《ボルケン・ハウス》の自然舞台――それが僕に貴女の不在証明《アリバイ》を認めさせたのです。貴女もクリヴォフ夫人も、あの|渡り鳥《ワンダー・フォーゲル》……虹によって救われたのですよ」
「ああ、虹とは……。貴方は何を仰言《おっしゃ》るのです」伸子
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