tったものが光っているようでいて、そのくせどうも形体《かたち》の明瞭《はっきり》としていない、まるで気体のようなものでした。ところが、その異様なものは、窓の上方の外気の中から現われて来て、それがふわふわ浮動しながら、斜めにあの窓の中へ入り込んで行くのでした。その一瞬後に、クリヴォフ様が裂くような悲鳴をおあげになりました」と伸子は、まざまざ恐怖の色を泛《うか》べて、法水の顔を窺《うかが》うように見入るのだった。「最初私は、レヴェズ様があの際にいらっしゃったので、あるいは、驚駭噴泉《ウォーター・サープライズ》の飛沫かなとも思いました。でも考えてみますと、だいたい微風さえもないのに、飛沫が流れるという気遣《きづか》いはございませんわね」
「ふん、またお化《ばけ》か」と検事は顔を顰《しか》めて呟《つぶや》いたが、同時に唇の奥で、それとも伸子の虚言《うそ》か――と附け加えたのは当然であろう。しかし、熊城はただならぬ決意を泛《うか》べて立ち上った。そして、厳然と伸子に云い渡したのだった。
「とにかく、この数日間の不眠苦悩はお察ししますが、しかし今夜からは、充分よく眠られるように計らいましょう。だい
前へ
次へ
全700ページ中438ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング