ヘ突然弾ね上げたように身体を起して、涙で霑《うる》んだ美しい眼を法水に向けた。しかし、一方その虹は、検事と熊城を絶望の淵に叩き込んでしまった。恐らく二人にとれば、その刹那《せつな》が、あらゆる力の無力を直感した瞬間であったろう。けれども、その法水が持ち出した、華やかに彩色濃く響の高い絵には、どうしても魅了せずにはおかない不思議な感覚があった。法水は静かに云った。
「虹……まさにそれは、革鞭《かわむち》のような虹でした。ですが、犯人を気取ってみたり、久我鎮子の衒学的《ペダンティック》な仮面を被《つ》けたりしている間は、それに遮られていて、あの虹を見ることが出来なかったのです。僕は心から苦難をきわめていた貴女の立場に御同情しますよ」
「では、久我さんの言《ことば》を借りれば――動機変転《モチフ・ワンデル》。ねえ、そうでございましょう。でも、そんな隈取りは、もう既《とう》に洗い落してしまいましたわ。偽悪、衒学《ペダントリー》……そういう悪徳は、たしか、私には重過ぎる衣裳でしたわね」と第一日以来鬱積しきっていたものが、彼女の制御を跳ね越えて一時に放出された。伸子の身体がまるで小鹿のように弾み出
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