オげに嘯《うそぶ》くと、法水はそれを窘《たしな》めるように見てから、伸子に云った。
「お構いなく続けて下さい。元来僕は、シェレイの妻君([#ここから割り注]メリー・ゴドウイン――詩人シェレイの後妻「フランケンシュタイン」の作者[#ここで割り注終わり])みたいな作品は大嫌いなのです。ああいう内臓の分泌を促すような感覚には、もう飽き飽きしているのですからね。ところで、その白羽のボアが揺《ゆら》いだのは? それが鐘鳴器《カリリヨン》室のどんな場面で、貴女に風を送りましたね」
「実際を申しますと、その蛾は遂々《とうとう》、蝙蝠の餌食《えじき》になってしまったのでございます。何故なら、私にあの難行をお命じになったのが、クリヴォフ様なんでございますものね。――それも、独りで三十櫓楼船《ブチントーロ》を漕げって」と瞬間、冷たい憤怒が伸子の面を掠《かす》めたけれども、それはすぐに、跡方もなく消え失せてしまった。そして続けた。
「だって、いつもならレヴェズ様がお弾きになるあの重い鐘鳴器《カリリヨン》を、女の私に、しかも三回ずつ繰り返せよと仰言《おっしゃ》ったのです。ですから、最初弾いた経文歌《モテット》
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