う》なんだよ。しかも、第一期の比較的目立たない徴候が、十数年にわたって継続する場合がある。けれども、そういう中でも、一番顕著なものと云うのは、ほかでもないロムベルグ徴候じゃないか。両眼を覆われるか、不意に四辺《あたり》が闇になるかすると、全身に重点が失われて、蹌踉《そうろう》とよろめくのだ。それがあの夜、夜半の廊下に起ったのだよ。つまりクリヴォフ夫人は、ダンネベルグ夫人がいる室《へや》へ赴くために、区劃扉《くぎりドア》を開いて、あの前の廊下の中に入ったのだ。知ってのとおり両側の壁には、長方形をした龕形《がんけい》に刳《えぐ》り込まれた壁灯が点されている。そこで、自分の姿を認められないために、まず区劃扉の側《かたわら》にある開閉器《スイッチ》を捻《ひね》る。勿論、その闇になった瞬間に、それまで不慮にも注意を欠いていた、ロムベルグ徴候が起ることは云うまでもない。ところが、そうして何度か蹌《よろ》めくにつれて、長方形をした壁灯の残像が幾つとなく網膜の上に重なってゆくのだ。ねえ支倉君、ここまで云えば、これ以上を重ねる必要はあるまい。クリヴォフ夫人がようやく身体の位置を立て直したときに、彼女の
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