《かべろ》が、数十個の石材で畳み上げられてあった。正面には、黒い天鵞絨《びろうど》の帷幕《とばり》が鉛のように重く垂れ、なお扉から煖炉に寄った方の壁側には、三尺ほどの台上に、裸体の傴僂《せむし》と有名な立法者《スクライブ》(埃及《エジプト》彫像)の跏像《かぞう》とが背中合せをしていて、窓際寄りの一劃は高い衝立《ついたて》で仕切られ、その内側に、長椅子と二、三脚の椅子|卓子《テーブル》が置かれてあった。隅の方へ行って人群から遠ざかると、古くさい黴《かび》の匂いがプーンと鼻孔を衝《つ》いてくる。煖炉棚《マントルピース》の上には埃が五|分《ぶ》ほども積っていて、帷幕に触れると、咽《むせ》っぽい微粉が天鵞絨の織目から飛び出してきて、それが銀色に輝き、飛沫《しぶき》のように降り下ってくるのだった。一見して、この室《へや》が永年の間使われていないことが判った。やがて、法水は帷幕を掻き分けて内部を覗き込んだが、その瞬間あらゆる表情が静止してしまって、これも背後から、反射的に彼の肩を掴んだ検事の手があったのも知らず、またそれから波打つような顫動《せんどう》が伝わってくるのも感ぜずに、ひたすら耳が鳴り顔
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