だち》の兜《かぶと》を頂いた緋縅錣《ひおどししころ》[#ルビの「ひおどししころ」は底本では「ひおどしころ」]の鎧に、何の奇異《ふしぎ》があるのであろうか。検事はなかば呆れ顔に反問した。
「兜が取り換えられているんだ」と法水は事務的な口調で、「向う側にあるのは全部|吊具足《つりぐそく》(宙吊りにしたもの)だが、二番目の鞣革《なめしがわ》胴の安鎧に載っているのは、錣《しころ》を見れば判るだろう。あれは、位置の高い若武者が冠る獅子噛台星前立脇細鍬《ししがみだいほしまえだてわきほそぐわ》という兜なんだ。また、こっちの方は、黒毛の鹿角立という猛悪なものが、優雅な緋縅《ひおどし》の上に載っている。ねえ支倉君、すべて不調和なものには、邪《よこし》まな意志が潜んでいるとか云うぜ」と云ってから召使《バトラー》にこの事を確かめると、さすがに驚嘆の色を泛《うか》べて、
「ハイ、さようでございます。昨夕までは仰言《おっしゃ》ったとおりでございましたが」と躊躇《ちゅうちょ》せずに答えた。
それから、左右に幾つとなく並んでいる具足の間を通り抜けて、向うの廊下に出ると、そこは袋廊下の行き詰りになっていて、左は、本
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