しい黒漆《こくしつ》がキラキラ光っている。しかし、その室が古代時計室だということを知ると、収蔵品の驚くべき価値を知る法水には、一見|莫迦気《ばかげ》て見える蒐集家の神経を頷《うなず》くことが出来た。廊下はそこを基点に左右へ伸びていた。一劃ごとに扉が附いているので、その間は隧道《トンネル》のような暗さで、昼間でも龕《がん》の電燈が点《とも》っている。左右の壁面には、泥焼《テルラコッタ》の朱線が彩っているのみで、それが唯一の装飾だった。やがて、右手にとった突当りを左折し、それから、今来た廊下の向う側に出ると、法水の横手には短い拱廊《そでろうか》が現われ、その列柱の蔭に並んでいるのが、和式の具足類だった。拱廊の入口は、大階段室の円《まる》天井の下にある円廊に開かれていて、その突当りには、新しい廊下が見えた。入口の左右にある六弁形の壁燈を見やりながら、法水が拱廊の中に入ろうとした時、何を見たのか愕然《ぎょっ》としたように立ち止った。
「ここにもある」と云って、左側の据具足《すえぐそく》(鎧櫃《よろいびつ》の上に据えたもの)の一列のうちで、一番手前にあるものを指差した。その黒毛三枚鹿|角立《つの
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