形に現われたものを発見《みつ》け出すつもりだよ」と云ってから、今度は召使《バトラー》に、「ところで、昨夜七時から八時までの間に、この甲冑武者について目撃したものはなかったかね」
「ございません。生憎《あいにく》とその一時間が、私どもの食事に当っておりますので」
それから法水は、甲冑武者を一基一基解体して、その周囲は、画図と画図との間にある龕形《がんけい》の壁灯から、旌旗の蔭になっている、「腑分図」の上方までも調べたけれど、いっこうに得るところはなかった。画面のその部分も背景のはずれ近くで、様々の色の縞が雑然と配列しているにすぎなかった。それから、階段廊を離れて、上層の階段を上って行ったが、その時何を思いついたのか、法水は突然|奇異《ふしぎ》な動作を始めた。彼は中途まで来たのを再び引き返して、もと来た大階段の頂辺《てっぺん》に立った。そして、衣嚢《かくし》から格子紙《セクション》の手帳を取り出して、階段の階数をかぞえ、それに何やら電光形《ジグザグ》めいた線を書き入れたらしい。さすがこれには、検事も引き返さずにはいられなかった。
「なあに、ちょっとした心理考察をやったまでの話さ」と階上の
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