ラクライマックス》が、はっきりと三人の感覚的限界を示していたからであった。そこで法水は、この北方《ゴート》式悲劇に次幕の緞帳《カーテン》を上げた。
「ところで田郷さん、昨夜の七時前後と云えば、ちょうど傭人達の食事時間に当っていたそうですし、また拱廊《そでろうか》で、兜《かぶと》が置き換えられた頃合にも符合するのですが、とにかくその前後に、大階段の両裾にあった二基の中世|甲冑《かっちゅう》武者が、階段を一足跳びに上ってしまい、『腑分図』の前方に立ち塞がっていたのです。しかし、たったその一事だけで、津多子夫人の死体が古代時計室の中に証明されるのですがね。サァ論より証拠、今度はあの鋼鉄扉を開いて頂きましょうか」
 それから、古代時計室に行くまでの暗い廊下が、どんなに長いことだったか。恐らく、窓を激しく揺する風も雪も、彼等の耳には入らなかったであろう。熱病患者のような充血した眼をしていて、上体のみが徒《いたず》らに前へ出て、体躯《たいく》のあらゆる節度を失いきっている三人にとると、沈着をきわめた法水の歩行が、いかにももどかしかったに違いない。やがて最初の鉄柵扉が左右に押し開かれ、漆《うるし》で
前へ 次へ
全700ページ中305ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング