澄みわたった黒鏡のように輝いている鋼鉄扉の前に立つと、真斎は身体を跼《かが》めて、取り出した鍵で、右扉の把手《ハンドル》の下にある鉄製の函《はこ》を明け、その中の文字盤を廻しはじめた。右に左に、そうしてまた右に捻《ひね》ると、微かに閂止《かんぬきどめ》の外れる音がした。法水は文字盤の細刻を覗き込んで、
「なるほど、これはヴィクトリア朝に流行《はや》った羅針儀式《マリナース・コムパス》([#ここから割り注]文字盤の周囲は英蘭土(イングランド)近衛竜騎兵聯隊の四王標である。ヘンリー五世、ヘンリー六世、ヘンリー八世 女王エリザベスの袖章で細彫りがされ把手には the Right Hon'ble. JOHN Lord CHURCHIL の胸像が彫られてある[#ここで割り注終わり])ですね」と云ったけれども、それがどことはなしに、失望したような空洞《うつろ》な響を伝えるのだった。鍵の性能に対してほとんど信憑《しんぴょう》をおいていない法水にとると、恐らくこの二重に鎖された鉄壁が、彼の心中に蟠《わだかま》っている、ある一つの観念を顛覆したに違いないのだった。
「サア、名称は存じませんが、合わせ文字
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