」
真斎は、たまりかねたらしく、肱掛《ひじかけ》を握った両手が怪しくも慄《ふる》え出した。
「すると、あんたの心中にあるその人物というのは、いったい誰を指して云うことですかな?」
「押鐘津多子です」法水はすかさず凜然《りんぜん》と云い放った。「かつてあの人は、日本のモード・アダムスと云われた大女優でした。五フイート四インチという数字は、あの人の身長以外にはないのですよ。田郷さん、貴方はダンネベルグ夫人の変死を発見すると同時に、昨夜から姿の見えない津多子夫人に、当然疑惑の眼を向けました。しかし、光栄ある一族の中から犯人を出すまいとすると、そこになんらかの措置《そち》で、覆わねばならぬ必要に迫られたのです。ですから、全員に嵌口令《かんこうれい》を敷き、夫人の身廻り品を、どこか眼につかない場所に隠したのでしょう。無論そういう、支配的な処置に出ることの出来る人物と云えば、まず貴方以外にはありません。この館の実権者をさておいて、他にそれらしい人を求められよう道理がないじゃありませんか」
押鐘津多子《おしがねつたこ》――その名は事件の圏内に全然なかっただけに、この場合青天の霹靂《へきれき》に等
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