たものが、八時過ぎにはここまで飛び上っておりました。いったい、誰がいたしましたものか?」
「そうだろう。モンテスパン侯爵夫人のクラーニイ荘を見れば判る。階段の両裾に置くのが定法だからね」と法水はアッサリ頷《うなず》いて、それから検事に、「支倉君、試しに持ち上げて見給え。どうだね、割合軽いだろう。勿論実用になるものじゃないさ。甲冑も、十六世紀以来のものは全然装飾物なんだよ。それも、路易《ルイ》朝に入ると肉彫の技巧が繊細になって、厚みが要求され、終いには、着ては歩けないほどの重さになってしまったものだ。だから、重量から考えると、無論ドナテルロ以前、さあ、マッサグリアかサンソヴィノ辺りの作品かな」
「オヤオヤ、君はいつファイロ・ヴァンスになったのだね。一口で云えるだろう――抱えて上れぬほどの重量ではないって」と検事は痛烈な皮肉を浴びせてから、「しかし、この甲冑武者が、階下にあってはならなかったのか。それとも、階上に必要だったのだろうか?」
「無論、ここに必要だったのさ。とにかく、三つの画を見給え。疫病・刑罰・解剖だろう。それに、犯人がもう一つ加えたものがある――それが、殺人なんだよ」
「冗談
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