価は困難だよ。依然降矢木Xさ」と検事は容易に首肯した色を見せなかった。そして、暗に算哲の不思議な役割を仄《ほの》めかすと、法水もそれに頷《うなず》いて、劇《はげ》しい皮肉を酬いられたかのように、錯乱した表情を泛《うか》べるのだった。事実、それが幽霊のような潜在意識だとすれば、恐らく法水の勝利であろう。けれども、もし単に、一場の心的錯誤《パラムネジイ》だとしたら、それこそ推理測定を超越した化物に違いないのである。乙骨医師は時計を見て立ち上ったが、この毒舌家は、一言皮肉を吐き捨てるのを忘れるような親爺《おやじ》ではなかった。
「さて、今夜はもう仏様も出まいて。しかし法水君、問題は、空想より論理判断力のいかんにあるよ。その二つの歩調が揃うようなら、君もナポレオンになれるだろうがな」
「いや、トムセン([#ここから割り注]丁抹(デンマーク)の史学者。バイカル湖畔南オルコン河の上流にある突厥人の古碑文を読破せり[#ここで割り注終わり])で結構さ」と法水は劣らず云い返したが、その言葉の下から、俄然ただならぬ風雲を捲き起してしまった。「勿論僕に、たいした史学の造詣《ぞうけい》はないがね。しかし、この
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