君、僕が伸子の、開目の際を条件としたのも、つまるところは、マリア・ブルネル夫人と同じ朦朧《もうろう》状態を狙《ねら》い、あわよくば、まさに飛び去ろうとする潜在意識を記録させようとしたからなんだよ。ところが、やはりあの女も、法心理学者の類例集《カズイステイク》から洩れることは出来なかったのだ。ねえ、伸子の先例は、オフィリアに求められるのだろうね。しかしオフィリアの方は、単に狂人《きちがい》になってから、幼い頃乳母から聴いた――(あすはヴァレンタインさまの日)の猥歌《ざれうた》を憶い出したにすぎない。ところが、伸子の方は、降矢木というすこぶる劇的《ドラマチック》な姓を冠せて、物凄い皮肉を演じてしまったのだよ」
その署名には、恐ろしい力で惹《ひ》きつけるようなものがあった。しばらく釘付けになっているうちに、まず直情的な熊城《くましろ》が気勢を上げた。
「つまり、[#ここから横組み]グッテンベルガー=降矢木旗太郎[#ここで横組み終わり]なんだ。これで、クリヴォフ夫人の陳述が、綺麗《きれい》さっぱり割り切れてしまうぜ。サア法水君、君は旗太郎の不在証明《アリバイ》を打ち破るんだ」
「いや、この評
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