だけを、ちょうどジーグフリードの木の葉のように残しておくのだ。何故なら、失神中は皮膚の触覚を欠いていても、内部の筋覚や関節感覚、それに、擽痒《かゆみ》の感覚には一番刺戟されやすいのだからね。すると、当然その場所に、劇烈な擽痒《かゆみ》が起る。そうしてそれが電気刺戟のように、頸椎神経の目的とする部分を刺戟して、指に無意識運動を起させるに違いないのだ。つまりこの一つで、伸子がいかにして鎧通しを握ったか――という点に、根本の公式を掴んだような気がしたのだ。乙骨君、君は故意か内発かと云ったけれども、僕は、故意かエーテルに代る何物かと云いたいんだ。どうして、その本体を突き詰めるまでには、まだまだ繊細微妙な分析的神経が必要なんだよ」と彼の表情に、みるみる惨苦の影が現われてゆき、打って変って沈んだ声音で呟《つぶや》いた。
「ああ、いかにも僕は喋《しゃべ》ったよ。しかし、結局廻転椅子の位置は……あの倍音演奏はどうなってしまうんだ?」
そうしてから、しばらく法水は煙の行方を眺めていて、発揚状態を鎮めているかに見えたが、やがて乙骨医師に向って、話題を転じた。
「ところで、君に依頼しておいたはずだが、伸子
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