の自署をとってくれただろうか」
「だがしかしだ。これには充分質問例題とする価値があるぜ。何故《どうして》君は、伸子が覚醒した瞬間に、自分の名前を書かせたのだったね」と云って、乙骨医師が取り出した紙片に、俄然三人の視聴が集められてしまった。それには、紙谷《かみたに》ではなく、降矢木《ふりやぎ》伸子と書かれてあったからだ。法水はちょっと瞬《またた》いたのみで、彼が投じた波紋を解説した。
「いかにも乙骨君、僕は伸子の自署が欲しかったのだ。と云って、なにも僕はロムブローゾじゃないのだからね。水精《ウンディネ》や風精《ジルフェ》を知ろうとして、クレビエの『筆蹟学《グラフォロジイ》』までも剽竊《ひょうせつ》する必要はないのだよ。実を云うと、往々失神によって、記憶の喪失を来す場合がある。それなので、もし伸子が犯人でない場合に、このまま忘却のうちに葬られてしまうものがありゃしないかと、実は内々でそれを懼《おそ》れていたからなんだよ。ところで、僕の試みは、『マリア・ブルネルの記憶』に由来しているんだ」

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(註)ハンス・グロスの「予審判事要覧」の中に、潜在意識
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