ヒステリー性知覚脱失の数十例を挙げている。また、あの伸子という女は、今朝弾いてその時弾くはずでなかった讃詠《アンセム》を、失神直前に再演したのだったよ。だから、その時何かの機《はず》みで腹を押したとすれば、その操作で無意識状態に陥るという、シャルコーの実験を信じたくなるじゃないか」
「すると、君が頸椎《けいつい》を気にした理由も、そこにあるのかね」と乙骨医師はいつの間にか引き入れられてしまった。
「そうなんだ。事によると、自分がナポレオンになるような幻視《アウロラ》を見ているかもしれないが、先刻《さっき》から僕は、一つの心像的標本を持っているのだ。君はこの事件に、ジーグフリードと頸椎――の関係があるとは思わないかね」
「ジーグフリード※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」これには、さすがの乙骨医師も唖然《あぜん》となってしまった。「もっとも、帰納的に頭の狂っている男は、その標本を一人僕も知っているがね」
「いや、結局は比《レイショ》の問題さ。しかし僕は、知性にも魔法的効果があると信じているよ」と法水は充血した眼に、夢想の影を漂わせて云った。「ところで、強烈な擽痒感覚《かゆみ》に、電気刺戟
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