う小城《こしろ》魚太郎([#ここから割り注]最近出現した探偵小説家[#ここで割り注終わり])の短篇中にも――殺人を犯そうとする一人の病監医員が、もともと一労働者にすぎないその患者に、医学的な術語を聴かせ、それを後刻の発作中に喋《しゃべ》らせて、自分自身の不在証明《アリバイ》に利用する――という作品もあるとおりで、自己催眠的な発作が起ると、自分が行いかつ聴いたうちの最も新しい部分を、それと寸分|違《たが》わぬまでに再演しかつ喋るのであるから、別名としてのヒステリー性無暗示後催眠現象と呼ぶ方が、かえって、この現象の実体に相応するように思われるのである。それであるからして乙骨医師が、内心法水の鋭敏な感覚に亢奮《こうふん》を感じながらも、表面痛烈な皮肉をもって異議を唱えたのも無理ではなかった。それを聴くと、法水はいったん自嘲めいた嘆息をしたが、続いて、彼には稀《めず》らしい噪狂的な亢奮《こうふん》が現われた。
「勿論|稀有《けう》に属する現象さ。しかし、あれを持ち出さなくては、どうして伸子が失神し鎧通しを握っていたか――という点に説明がつくもんか。ねえ乙骨君、アンリ・ピエロンは、疲労にもとづく
前へ
次へ
全700ページ中278ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング