とわたり観察した後に、その視線を下げて、今度は壁面に向けた顔を何度となく顎《あご》を上下させ、そういう態度を数回にわたって繰り返したからであって、その様子がなんとなく、算数的に比較検討しているもののように思われたからだった。はたせるかな、この予測は的中した。最初から死体を見ぬにもかかわらず、はや法水は、この館の雰囲気を摸索《まさぐ》ってその中から結晶のようなものを摘出していったのであった。
玄関の突当りが広間になっていて、そこに控えていた老人の召使《バトラー》が先に立ち、右手の大階段室に導いた。そこの床には、リラと暗紅色の七宝《しっぽう》模様が切嵌《モザイク》を作っていて、それと、天井に近い円廊を廻《めぐ》っている壁画との対照が、中間に無装飾の壁があるだけいっそう引き立って、まさに形容を絶した色彩を作っていた。馬蹄形に両肢を張った階段を上りきると、そこはいわゆる階段廊になっていて、そこから今来た上空に、もう一つ短い階段が伸び、階上に達している。階段廊の三方の壁には、壁面の遙か上方に、中央のガブリエル・マックス作「腑分図《ふわけず》」を挾んで、左手の壁にジェラール・ダビッドの「シサムネ
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