た。長い矩形に作られている本館の中央は、半円形に突出していて、左右に二条の張出間《アプス》があり、その部分の外壁だけは、薔薇色の小さな切石を膠泥《モルタル》で固め、九世紀風の粗朴な前羅馬様式《プレ・ロマネスク・スタイル》をなしていた。勿論その部分は礼拝堂に違いなかった。けれども、張出間《アプス》の窓には、薔薇形窓がアーチ形の格子の中に嵌《はま》っているのだし、中央の壁画にも、十二宮を描いた彩色硝子《ステインド・グラス》の円華《えんげ》窓のあるところを見ると、これ等様式の矛盾が、恐らく法水の興味を惹《ひ》いたことと思われた。しかし、それ以外の部分は、玄武岩の切石積で、窓は高さ十尺もあろうという二段|鎧扉《よろいど》になっていた。玄関は礼拝堂の左手にあって、もしその打戸環のついた大扉《おおと》の際《そば》に私服さえ見なかったならば、恐らく法水の夢のような考証癖は、いつまでも醒めなかったに違いない。けれども、その間《あいだ》でも、検事が絶えず法水の神経をピリピリ感じていたと云うのは、鐘楼らしい中央の高塔から始めて、奇妙な形の屋窓や煙突が林立している辺りから、左右の塔櫓にかけて、急峻な屋根をひ
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