《かえん》になっていた。花苑を縦横に貫いている散歩路の所々には、列柱式の小亭や水神やサイキあるいは滑稽な動物の像が置かれてあって、赤煉瓦を斜《はす》かいに並べた中央の大路を、碧《みどり》色の釉瓦《くすりがわら》で縁取りしている所は、いわゆる矢筈敷《ヘリング・ボーン》と云うのであろう。そして、本館は水松《いちい》の刈込垣で繞《めぐ》らされ、壁廓の四周《まわり》には、様々の動物の形や頭文字を籬状《まがきがた》に刈り込んだ、※[#「木+單」、第4水準2−15−50]《つげ》や糸杉の象徴《トピアリー》樹が並んでいた。なお、刈込垣の前方には、パルナス群像の噴泉があって、法水が近づくと、突如奇妙な音響を発して水煙《すいえん》を上げはじめた。
「支倉《はぜくら》君、これは驚駭噴泉《ウォーター・サープライズ》と云うのだよ。あの音も、また弾丸《たま》のように水を浴びせるのも、みんな水圧を利用しているのだ」と法水は飛沫《しぶき》を避けながら、何気なしに云ったけれども、検事はこのバロック風の弄技物から、なんとなく薄気味悪い予感を覚えずにはいられなかった。
 それから法水は、刈込垣の前に立って本館を眺めはじめ
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