うへき》まで続いている。その赭土褐砂《しゃどかっさ》の因をなしたというのは、建設当時移植したと云われる高緯度の植物が、またたく間に死滅してしまったからであった。けれども、正門までは手入れの行届いた自動車路が作られていて、破墻挺崩《はしょうていくず》しと云われる切り取り壁が出張った主楼の下には、薊《あざみ》と葡萄の葉文が鉄扉を作っていた。その日は前夜の凍雨の後をうけて、厚い層をなした雲が低く垂れ下り、それに、気圧の変調からでもあろうか、妙に人肌めいた生暖かさで、時折|微《かす》かに電光《いなずま》が瞬き、口小言《くちこごと》のような雷鳴が鈍く懶気《ものうげ》に轟《とどろ》いてくる。そういう暗澹たる空模様の中で、黒死館の巨大な二層楼は――わけても中央にある礼拝堂の尖塔や左右の塔櫓が、一|刷毛《はけ》刷いた薄墨色の中に塗抹《とまつ》されていて、全体が樹脂《やに》っぽい単色画《モノクローム》を作っていた。
 法水《のりみず》は正門際で車を停めて、そこから前庭の中を歩きはじめた。壁廓の背後には、薔薇《ばら》を絡ませた低い赤格子の塀があって、その後が幾何学的な構図で配置された、ル・ノートル式の花苑
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