つまでもジインと網膜の上にとどまっていた。また一方法水にも、彼の行手に当って、殺人史上空前ともいう異様な死体が横たわっていようとは、その時どうして予知することが出来たであろうか。
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  第一篇 死体と二つの扉を繞って
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    一、栄光の奇蹟[#「一、栄光の奇蹟」は底本では「一栄光の奇蹟」]

 私鉄T線も終点になると、そこはもう神奈川県になっている。そして、黒死館を展望する丘陵までの間は、樫《かし》の防風林や竹林が続いていて、とにかくそこまでは、他奇のない北|相模《さがみ》の風物であるけれども、いったん丘の上に来てしまうと、俯瞰《ふかん》した風景が全然風趣を異にしてしまうのだ。ちょうどそれは、マクベスの所領クォーダーのあった――北部|蘇古蘭《スコットランド》そっくりだと云えよう。そこには木も草もなく、そこまで来るうちには、海の潮風にも水分が尽きてしまって、湿り気のない土の表面が灰色に風化していて、それが岩塩のように見え、凸凹した緩斜の底に真黒な湖水《みずうみ》があろうと云う――それにさも似た荒涼たる風物が、擂鉢の底にある墻壁《しょ
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